日本人の恋びと
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日本人の恋びと

毎週届くクチナシの花、黄色い封筒に入った手紙、お忍びの小旅行…80代を迎えた老人の謎めいた日常の背後に、いったい何があるのか?老人ホームに暮らすアルマ。日系人イチメイとの悲恋を主軸に過去と現代のドラマが展開する、現代版『嵐が丘』。

著者:イサベル・アジェンデ

(1942年8月2日 - )チリの作家。サルバドール・アジェンデの親族であったためピノチェトによるクーデターでベネズエラへ亡命。この地で一族の半生をモチーフにした『精霊たちの家』を発表。ポルフィリン症で亡くなった娘のために書いた『パウラ、水泡なすもろき命』を最高傑作としている。

イサベル・アジェンデの本
2018.
07.21Sat

日本人の恋びと

書いているときに他人の本を読むのは、エンストしたポンコツをどうにか動かそうと悪戦苦闘するとき、高級スポーツカーが颯爽と通り過ぎるのを眺めるようなものだとある作家がいった。まさにそのような理由でこの本は読み終えるのに時間がかかった。いい本だった、しかし本来は何も考えずに一気読みすべき本なのだろう。だらだらと読んだせいかどうも心から感動できなかった。だれからも愛された経験がないので恋愛を扱った物語は共感しかねた。愛されないのはなんの能力もないからで、この本の登場人物たちは愛し合う。容姿を含めた社会的能力が高いからだ。孤独な人物はあまり登場しない。登場してもその孤独は無条件で解消されるか、あるいはよくわからない描かれかたをする。たとえば題名にもなっている日本人の恋びとだ。当人にとっては意味不明であっただろう激烈なふられかたをするにもかかわらず、おそらくあったに違いないその孤独がなんだかごまかされている。金持の白人の都合のいいファンタジーとして間接的に描かれるのみだ。ふる側は金持の白人で、ふられる(あるいはふりまわされる)側は敗戦国にルーツをもつ被差別階級だ。「日本人の恋びと」の人間性は亡霊のようにつかみどころがないまま結末を迎える。ミステリアスないけめんだったんだろうなという印象しか残らない。謎が解かれたあともなんとなく腑に落ちない感じが残る。きっと日本人であることは美しい白人の奥様にとって、人生が意味のあるものであったかに信じるための甘いファンタジーに、エキゾチックな風味を添える効果があったのだろう。新興宗教のエピソードになんの必然性もないかに思われるのもエキゾチックな道具立てにすぎなかったからだ。そうしたすべては別に瑕疵でも何でもない、むしろきっといいことなのだと思う。想い出とはそういうものだし、そういうものを拠り所として生きるのが素敵な人生なのだ。そうしたものから完全に疎外された人間にとっては虚しく想像するしかない。個人的にはせめて小説では恋愛でも加齢でも、そして人生でももう少し何かしっかりした実感を得たいものだけれど、愛されない人間にはつかみどころのない幻でも、愛された人間にはその経験を通じて感じられる生々しい重みが、きっとこの本にはあるのではないか。あるいは愛されるひとはそうでない人間と違って、美しく老いるのかもしれない。


杜 昌彦

(もり まさひこ、1975年6月18日 -)著者、出版者。硬質な文体と独創的な物語で知られる。作風はアヴァン・ポップ、スリップストリーム、スペキュレイティブ・フィクションに分類される。2010年から別名義で活動。2013年日本電子出版協会(JEPA )主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、藤井太洋氏、十市社氏らによる指導を受けた『悪魔とドライヴ』が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。

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