白雪姫もシンデレラも、 幼い頃からしっくりこなかった。
白雪姫は徹頭徹尾受け身だし、 シンデレラは自発的に舞踏会へ行ったものの一方的に見初められた感じだったし、 たとえ好みの男性じゃなかったとしても王子から求婚されて断れるわけないじゃない? それでふたりはけっこんしましたはいゴール!じゃ恋愛要素はどこにもない。 だから 「めでたしめでたし」 なのは、 不安定だった彼女たちの暮らしが保証されたという意味なのかなと幼心に解釈してた。 我ながら可愛げがないと思うけど、 低学年から恋愛至上主義の少女漫画に浸かって育つと、 かえってこんな風になっちゃうこともある。
恋心というものを知るようになると、 物語の隙間に恋愛要素はあったのだろうと思うようになった。 書かれていないだけで。 白雪姫は城に連れられていく間に、 シンデレラは王子とダンスしている間に、 何かしらの交流があったはず (という期待)。 周りのサンプルを見ても、 恋とはライターでぼっと点火するようなものではないのだから。 そういうのもあるらしいけど (目が合っただけで発火するような一目惚れってどのくらいの頻度であるのだろう)。
ふたりはけっこんしてすえながくしあわせにくらしました、 ゴールインからの生活は長い長い後日談のように語られるけど、 むしろそこからが山あり谷ありで叙事詩が書けると経験者は言うよ。 出会ってから好意を抱くまでの期間は、 振り返ってみれば助走期間だ。 やるにせよ読むにしろ私にはそっちのほうが面白い。 芝居の幕が上がるまでの時間が好きなのだ。
日常生活は、 その当人にとっては、 波乱に満ちたものだ。 わるものに狙われたり大事なものを失ったり愛し合ったり憎み合ったり仲直りしたりする。 誰かに操られたりまじないに惑わされることだってあるのだ。 恋愛って、 そんなふうにうっかり魔法にかけられた状態のことを言うのではないかと考えながら、 この小説ができた。
【編集部より:単行本未収録の番外編はこちら】