流れは、いつか海へと
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流れはいつか海へ

身に覚えのない罪を着せられてニューヨーク市警を追われたジョー・オリヴァー。十数年後、私立探偵となった彼は、警察官を射殺した罪で死刑を宣告された黒人ジャーナリストの無実を証明してほしいと依頼される。時を同じくして、彼自身の冤罪について、真相を告白する手紙が届いた。ふたつの事件を調べはじめたオリヴァーは、奇矯な元凶悪犯メルカルトを相棒としてニューヨークの暗部へとわけいっていくが。心身ともに傷を負った彼は、正義をもって闘いつづける―。アメリカ探偵作家クラブ賞最優秀長篇賞受賞作。


¥2,090
早川書房 2019年, 新書 320頁
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読んだ人:杜 昌彦

流れは、いつか海へと

悪い意味で驚きに満ちた本わが若かりし頃モズリイは憧れの作家だった人格OverDrive の英語名であるイージードッグ・プレスはイージー・ローリンズからの発想である98 年のイエロードッグ・ブルースでシリーズの翻訳は打ち切られ以後は同時多発テロに絡んだエッセイが一冊翻訳刊行されたきりだったフォローしている Facebook ページで続編の話題を見るたびに英語の読めない母語である日本語さえおぼつかないおれは哀しい思いをしてきたエドガー効果で今度こそ邦訳が出るだろうと期待した現物が端末に配信されるのが待ちきれなかった読みはじめるなりこんなんだっけ?と当惑したつまらないのである理由のひとつは探偵小説としての道具立てだサイコパスの友人だとか登場するなり過去に主人公を陥れたと窺い知れる警官時代の親友だとかいちいち凡庸なのだいかにもそれらしい意匠を寄せ集めたように感じる読みすすめるにつれて違和感がつのるモズリイに限らず探偵小説そのものを長いこと読んでいない電子書籍は直線的に読みすすめるのに適しているが探偵小説は前の記述を参照しながら行きつ戻りつして読むものだその読み方を忘れたせいかと考えたそればかりではないようだ題材的にひどく混乱した小説なのだそこに起因する不快感をはいはいハードボイルドハードボイルドとでもいいたげなおざなりな道具立てが隠蔽するこの手の物語において探偵がアルコールや薬物の依存症であるのは珍しくないそれをそっくりそのまま性依存症に置き換えてなおかつそのことを明示していないアル中の探偵がしばしば酒でしくじって失職した元警官であるようにこの小説の主人公は性暴力で失職した元警官である彼は無実の罪訳者あとがきではハニートラップなる単語が二度も用いられる2019 年の本とは思えないと主張するが警官が容疑者しかも初対面の女の家へ職務中に上がり込み見逃す代償として性行為しかも相手の髪を掴んでをなせば同意を得ようが得まいが潔白といえないのは自明の理である小説の評価において共感は必ずしも重要でないとはいえ人間として最低限共有する要素がなければ読みすすめるのは困難だしかも意地の悪いことにいかにも伝統的な探偵小説らしく一人称が採用されておりすべては性暴力の犯罪歴をもつ男の視点から語られるのである得体の知れぬ不快感は読みすすめるにつれ裏付けられる登場する女性はほぼ例外なく性的な評価に基づいて描写されひさしぶりに会った知人ならだれでもするような会話までもが性的なほのめかしを含むやりとりとして語られる妄想症の患者に世界はこのように見えているとでもいわんばかりだ性的な視線は実の娘や祖母にまで向けられる最初は無自覚に書かれたのかと考え太平洋戦争の時代に日系人がどのように扱われたかに自然に言及するような作家が⋯⋯と衝撃を受けたハリー・ポッターの著者が性差別主義者であったことを連想しさえしたしかしモズリイともあろう作家が #MeToo や Time’s Up を経た時代に何も考えずにこのような書き方をするはずがないいびつな視点は計算尽くで構築されたように感じたその書き方を踏まえてのエドガー賞であればよいのだがしかし退屈な読書だったという事実の前ではそんなことは何の意味も持たない二十年も待たされたのに失望した

(2019年12月25日)

(1975年6月18日 - )著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、総勢20名以上の協力を得てブラッシュアップした『血と言葉』(旧題:『悪魔とドライヴ』)が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。代表作に『ぼっちの帝国』『GONZO』など。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。
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ウォルター・モズリイ
1952年1月12日 -

米国の作家。ユダヤ系アフロアメリカン。代表作は、第二次世界大戦の退役軍人で黒人の私立探偵イージー・ローリンズが主人公のハードボイルド・ミステリのシリーズで、ベストセラーとなっている。

ウォルター・モズリイの本