D.I.Y.出版日誌

連載第85回: ダンス・ダンス・ダンスール(7)

アバター画像書いた人: 杜 昌彦
2017.
10.20Fri

ダンス・ダンス・ダンスール(7)

ダンス・ダンス・ダンスール)』 読了もんのすごい傑作だった読めてよかった人生でいちばんというくらいすごい漫画三年前の今頃海野つなみ逃げるは恥だが役に立つの一巻を読んでいてあれは最初はそれほどでもなかったその時点では LGBT の描き方が差別的だったし、 「普通の人の視点から描かれていてよくできてはいるけれども心から絶賛はできかねたそれが連載がつづくうちに思考が深まり多様性へのまなざしが行き届いて最終的には現代的な価値観の提示に成功していた化けたという印象対してダンス・ダンス・ダンスールは最初からすごかった作家のこれまでの積み重ねが意欲的な挑戦によって爆発した感じだほんとうにほんとうにすごい

ちょっとしたカットが肩の力を抜きつつしっかり描かれているすげえなと思わされた箇所がいくつもある今回まず打ちのめされたのは女装する少年の骨張った体つきや父親を亡くしたばかりの子どもの家が散らかっているわずかな背景描写言葉ではなく絵でさりげなくなおかつ最小の線で的確に見せる力量ねとにかく確かな技術と力があってそしてその力を必要に応じてふわっと抜いているああいう加減は本物でなければできない正直ジョージ朝倉にここまで惚れ込む日が来るとは思わなかった前にも書いたけれども惜しいところで何か違う作家だったんだよこれまではあとね個人的にはプロじゃねーしが響いたわこの台詞プロであるところの著者はどんな気持で書いたのかなぁ

ジェンダーの揺らぎを描いてきた作家が少年誌・青年誌に挑むのはもしかしたら最近の流行なのだろうか多くの作家がそこでの仕事をプロとして!憶えるにつれ当初の閃き鮮やかさを失うのに対してこの作品は逆にますます力を増しているこんなすげーものを部屋に居ながらにして購入してすぐ読めちゃうってすげえ時代だなぁSpotify でエリック・ドルフィーを聴きながらコンビニで買ったポケット瓶のジャック・ダニエルズを飲みながら指先でクリックしただけで本を見つけて買って読めちゃうわけだからドルフィーの音楽にしたってなんとなく前衛っぽいイメージだったけれどもSpotify で彼の仕事を何枚も通して聴いてみると作品によってアプローチを変えていて同じ時代でも直球のハードバップだったりリーダー作でなければ主役を引き立てたりいろいろやっているこういう一流のをふと思いついたらすぐさま楽しめるってなんて幸せな時代なんだ

ダンス・ダンス・ダンスール』、 いまもっとも楽しみにしている作品だよ描いてくれてありがとうそれこそ光が爆ぜてバチバチドーン」 「宇宙の爆発でしたよ次を読めるのは三ヶ月先か⋯⋯待たされてもいいいいものを読ませてくださいよろしくお願いします


(1975年6月18日 - )著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、総勢20名以上の協力を得てブラッシュアップした『血と言葉』(旧題:『悪魔とドライヴ』)が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。代表作に『ぼっちの帝国』『GONZO』など。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。