杜 昌彦

D.I.Y.出版日誌

連載第64回: ダンス・ダンス・ダンスール

杜 昌彦書いた人: 杜 昌彦, タグ:
2017.
07.28Fri

ダンス・ダンス・ダンスール

ジョージ朝倉はどうも惜しいところで何か違うという感じがこれまで拭えなかったのだけれどこれは文句なしに本物の大傑作。すげえなぁ。才能あるひとはみずからを成長させるもんなんだな。どうもこういう芸事を題材にしたスポ根ものにおれは弱い。あとジョージ朝倉の芸風というか、DV共依存ものに初めて辻褄があったような気がする。芸事の、なんというか、呪いみたいな部分にうまく絡めてるというか、必然性がある感じがした。恋愛としてそれを語ったらだめだろう子どもが読むんだし、とこれまでは思っていたけれども、これは腹の底から納得できる。

ジャンルで力をつけた著者が計算高くメジャーに打って出た感じ。くりかえし語ってきたモチーフ、DV共依存と、そっちとつきあえば幸せになれるはずの男、の対立をうまいことメジャーに転用している。DV共依存をソフトにして、そっちとつきあえば幸せになれるはずの男、を主人公に仕立てる。でもって「男の子はこういうのが好きなんでしょ?」「こういうのが売れるんでしょ?」とばかりコロコロコミック的な、あるいはドラゴンボール的な要素をこれでもかと見せつけてくる。あざとい。そしてそのいやらしいあざとさが見事的を射ていて、まんまと胸を打たれてしまう。いやらしい。あざとい。そしてすばらしい。

たぶんこれほんとにプロとしての計算高い仕事なんだとは思うんだ、でも挑んだと思うんだよ。そういうのを避けて通ってもいいのにあえて挑んだと思うんだ。作中の主人公のように。そういうのってすげえよな。なんかものすごく皮肉なんだけどさ、かるたのスポ根少女漫画、あれは結局、恋愛はどうでもいいわけでしょう。ジャンルの要請でしょうがなく恋愛に寄せたりするんだけど、とたんにつまらなくなるんだよ。あれは結局そういうのは描きたくないわけ。でもこの大傑作はちゃんと必然性があるんだよ、芸に呪われた恋愛に。これまで情動というかエネルギーはあったけれどもどこを目指しているかいまいちよくわからなかったモチーフに、ジャンル出身の自分を殺してメジャーへ肉薄することによって、決定的な落としどころを見つけてしまった。そういうことができるんだなぁ。着実に積み重ねていれば。到達できてしまうんだ。

やべえよこれは。研究し抜いて計算高い技術でやった、ある意味いやらしい部分にまで、しっかり胸を打たれてしまう。ある程度の長さがある物語だと、すべての流れが天才の発明でなくたっていいんだな。ありもの、借り物、転用、借用でもいい。むしろ部分的にそっくりサンプリングでもいい。それもまた全体を構築していく部品としての技術なんだよ。安易に流用してそれっぽく盛り上げる部分があったほうが、全体の情動はかえって説得力をもつ。計算高く精細に構築した部分と、肩の力を抜いておおらかにやった部分と、才気走った鮮やかな部分と、いろいろあって全体の力になるんだなと思う。というかむしろ七割くらいは大味にやったほうがいいのかもしれない。それは決して力量の七割が大味なのではなくて、あえて手綱を緩めたほうがダイナミックになるというか。活き活きとしたうねりが出てくる。ぜんぶが天才の鮮やかな独創だと息苦しくなる。大きな力強いうねりが生まれない。

少女漫画の作家って案外、少年漫画が子どもの頃から大好きで、よく知っていたりするんだよな。少女漫画だけじゃなくて少年漫画も男の子たちとおなじようにふつうに読んでるんだよ。男の子は少女漫画をほとんど読まないのに。抑圧された少年漫画への憧憬みたいなのが、メジャーへ打って出るときに解放されて傑作になったりするんだよな。あくまでホームグラウンドは少女漫画なんだけど、そこへの帰属意識や偏愛は変わらないのだけれども、でもやりたいのは少年漫画だったりする。だからあざとい技巧でありながらも案外、正直な本心だったりする。

それにしても少年漫画を意識したときの女性作家が描くヒロインって、なんでこう「無自覚なビッチ」キャラに偏るのかねぇ。少年漫画における理想のヒロインって、女性からはこんなふうに見えるんだろうか。でもって引き立て役の直球ビッチとかのほうが共感できるように描かれていたりすんのね。少女漫画時代からのファンにはこの作品はどんな風に見えているんだろうか、きのこ帝国のメジャー第一作はシューゲイザー時代からのファンには叩かれたようだけれども、ジャンルから出てきた作家がメジャーで勝負するとそれまでのファンからは不平が出たりしそうな気がする。作家の成長からはどうでもいいことだけど。とにもかくにもつづきが楽しみだ。


(もり まさひこ、1975年6月18日 -)著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、藤井太洋氏、十市社氏らによる指導を受けた『悪魔とドライヴ』が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。最新作は『ぼっちの帝国』。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。
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