クロストーク
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クロストーク

画期的な脳外科手術EEDを受けることにより、恋人や夫婦がたがいの気持ちをダイレクトに伝え合うことが可能になった社会。携帯電話メーカーのコムスパン社に勤務するブリディは、エリートビジネスマンでボーイフレンドのトレントとの愛を深めるため、干渉してくる親族たちや、コムスパンいちの変人と名高いCBの反対を押し切って、EED処置を受ける。だが、ブリディが接続したのは、トレントではなくとんでもない相手だった!?人の心がわかることは幸福につながるのか?ソーシャル・メディアとコミュニケーションの未来を、SFならではのテーマとミックスする、超常恋愛サスペンス大作。


¥2,970
早川書房 2018年, 新書 715頁
特集: 
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読んだ人:杜 昌彦

クロストーク

紙の本では結構な厚さらしいのだがそうは感じさせず一気読みしたファンにはおなじみのほうぼう探したんですよという台詞などもあり期待は裏切られないコニー・ウィリスはこれまでにも望まぬ相手から呼ばれつづけて望む相手はつかまらないというドタバタを好んで書いてきた喜劇としてのその技法はドゥームズデイ・ブックでは宗教的な主題をも支えていた二千年前にどこかへ行ったまま戻ってこない男をわれわれは呼びつづけているのであっていつまでもつかまらない彼の不在中に起きるできごとが小説となる。 『クロストークにおける発明はその技法を一転して卑近な恋愛を描くのに使ったことだ灯台もと暗しというかあまりにそのままの発想なのだが逆になかなか思いつかないやはり巧いおもしろかったのだけれども不満もある一般的にジャンルものは話をジャンルに寄せすぎると真実味が薄れてつまらなくなるこの小説はロマンティック・コメディではなく SF であったらしい七割進んだあたりの山場から SF に寄せすぎて恋愛の扱いが雑になったその直前まで SF は添え物にすぎず登場人物は活き活きとして説得力があったところがどうでもいい屁理屈にこだわったがために相手の男とうまくいくのかという物語の主題が中途半端に扱われた運命の相手との誤解による一時的な別離が本来は山場となるはずだったSF 的な屁理屈はその口実として機能しさえすればよい確かに SF 的な仕掛けによる別離はあるのだがそうであるならば相手への不信はもっと強調されるべきだしそのことで生じる対立や葛藤こそが描かれねばならない単なる口実として別離を演出するはずの屁理屈が前面に出て恋愛はあべこべに SF 的な謎解きの材料のように扱われたそれまではあたかも目の前に実在するかのように感じられた登場人物がとたんに紙人形になったもとより SF としては別に新機軸ではない特筆すべきはいちいち説明せずに内的世界と現実を行き来する描写が自然であることくらいでそれ以外はむしろスマートフォンやソーシャルメディアの扱いがおかしいといった欠点が目立つであればSF はどうでもいいんだよという態度に徹するべきなのに中途半端に矜持を見せたものだから SF としてもロマンティック・コメディとしても中途半端になった七割までは夢中で読んだだけに残念だあとどうでもいいことだが主人公が軽すぎる頭ではなく尻がそのあたりは生活を基盤に恋愛を描く獅子文六のやり方のほうが優れていると感じるかといって別に小説としてだめだったわけではない終盤がやや不満だというだけだ連載中のぼっちの帝国の主人公はコニー・ウィリスに影響を受けている参考になりそうだと感じて読んだ

(2019年04月08日)

(1975年6月18日 - )著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、総勢20名以上の協力を得てブラッシュアップした『血と言葉』(旧題:『悪魔とドライヴ』)が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。代表作に『ぼっちの帝国』『GONZO』など。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。
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コニー・ウィリス
1945年12月31日 -

米国の作家。ヒューゴー賞を11回、ネビュラ賞を7回、ローカス賞を11回受賞。主な作品に、21世紀中盤のオックスフォード大学の歴史研究家たちのタイムトラベルを描いた小説(『ドゥームズディ・ブック』、『犬は勘定に入れません』、『ブラックアウト』、『オール・クリア』など)がある。

コニー・ウィリスの本