昨年末に読んだ。 妙な探偵もの。 土地柄のせいか妙に呪術的で魔術的リアリズムを思わせる。 易経やら預言書めいた本やら、 ディックあるいはおなじ土地の作家エフィンジャーを想起させる。 「私立探偵」 なる職業が著名スターのごとく扱われる世界が描かれていて、 これは実際の米国社会を映したものか、 それともマーヴェルや DC のヒーロー映画のような荒唐無稽なつくりごとなのか、 ニュアンスがわからず困惑させられる。 マイケル・コナリーのボッシュものにも 「テレビに登場する著名な刑事」 なんてのが出てくるし、 民間軍事会社と同様に理解しがたい概念ではあるけれど、 private detective とは 「民間の刑事」 の意味だそうだから、 あるいは米国人にとってその設定はコロンビア人にとっての 『百年の孤独』 とおなじくらいに身近で真実味があるのかもしれない。 カトリーナでひとびとの暮らしや人生がどれだけ破壊されたか。 東北人としては洪水の高さを示す印や避難所、 出て行ったひとたちや出て行こうにも離れられないひとたちの描写が、 まるでよその土地とは思えない。 ましな人生を選び取るよう薦める年長者に対し、 よそには確かに豊かさも可能性もなんでもあるかもしれない、 でもこの土地で積み重ねた人との繋がりだけはないんだと応じる若者。 両者の子ども時代の記憶を結びつける因縁の書物。 呪術的な語り口でなければそのような物語は書かれ得なかったのかもしれない。 探偵のふるまいが性別で制限されないのもいい。 残念なのは邦訳の彼女が役割語でしゃべること。 フィクションにおける役割語は必要悪だと思うけれどこの物語においては必然性がない。 タフで皮肉でワイズクラックな 「探偵」 としての役割語を優先してほしかった。
ASIN: B00ZX01204
探偵は壊れた街で
by: サラ・グラン
クレア・デウィットはただの女探偵ではない。独特の探偵術を駆使し、巧みに銃を扱い、師と仰ぐ探偵たちの教えを守り困難な調査でも諦めずに事実を追う。2007年、ハリケーンの傷痕が未だ残るニューオーリンズで、クレアは失踪した地方検事補の捜索を依頼される。洪水で死んだと思われる一方で、嵐のあとに姿を見た者もおり、経緯がわからない。真実によって誰かが傷つくこともある。しかし探偵にできるのは、謎を解決し先に進むことだけだ。傷ついた街と人々に寄り添う女探偵の活躍を描く、マカヴィティ賞最優秀長篇賞受賞作。
¥1,222
東京創元社 2015年, Kindle版 389頁
特集: 探偵たち
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読んだ人:杜 昌彦
(2022年02月07日)
(1975年6月18日 - )著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、総勢20名以上の協力を得てブラッシュアップした『血と言葉』(旧題:『悪魔とドライヴ』)が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。代表作に『ぼっちの帝国』『GONZO』など。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。
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