Amazon はいずれ自前のオーサリングツールを用意するだろうと考えていました。 予測通りのニュースを知って、 このところ Word 入稿のアピールが強かった理由がわかりました。 KDP だけではなく CreateSpace も Word で版下をつくることを推奨しています。 縦書きなどの日本語対応には期待できません。 Kindle Create ばかりではなく、 CreateSpace も KDP Print も Kindle instant preview も何もかもが未対応です。 とはいえ彼らの目指すものは日本で提供されている機能制限版でも同じでしょう。 アフィリエイトの仕組みを整えて、 客が勝手に広告するよう仕向けたのと同じように、 出版の敷居を極限まで低くすることで、 生態系の裾野を広げ、 生産者から消費者まで囲い込みたいのだと思います。
その試みが成功して実現するのはどのような世界でしょうか。 読書は孤独な行為であり、 芸術は孤独なひとへの言葉です。 EC や SNS のアルゴリズムは利益と効率を最大化することで、 孤独とは相容れないものを極限まで拡大します。 醜いものほどコンバージョンしますし、 売りやすいものばかりを売れば、 それ以外のものを 「淘汰」 してなお売りやすくなります。 そのようにしてコンバージョンこそが出逢いの機会 (ランキング表示や関連づけなど) をつくります。 EC や SNS のアルゴリズムと親和性がある文化は、 孤独のための言葉を埋もれさせます。 そこではだれもが 「普通」 でなければなりません。
ebook のユーザは漫画やアニメ、 ゲームやデジタルガジェットの愛好家がまだまだ多い印象があります。 Google の区分でいえば 「Books & Literature/E-Books」 ではなく 「Arts & Entertainment/Comics & Animation/Anime & Manga」 を好む層です。 あるいは ebook にかぎらず読書そのものが変質したのかもしれません。 この 20 年間で出版社が (あるいは印刷物を介した金融業のような彼らのアルゴリズムが) 育ててきたのはそういう読者層です。 「本屋大賞はすでに売れているものしか選ばない。 わざわざやる意味があるのか」 といった意見をしばしば耳にします。 二回目の時点ですでに同じ指摘がされていました。 若い書店員もまた独自の視点や多様な価値、 それらをつなげる文脈に出逢う機会がなかった世代なのです。
ひとの好みは自由です。 世間の好みがどうあれ、 本好きもまた自由にやればいいのです。 一冊の価値や、 いかに読むかの視点、 本と本をつなぐ文脈を提示し、 広める必要があります。 そうすればいずれはアルゴリズムも価値や文脈を学習し、 表示精度を向上させます。 嘆いていても仕方がありません。 本と本をつなげて出逢いの機会をつくらなければ。 このサイトはそのための実践の場です。 当レーベルが今何をしているのか、 これから何をしようとしているのかを 「脳内会議」 でストリーミングします。 分量が溜まれば日記に、 日記が溜まれば単行本にまとめます。 それらの思考の成果物として小説の ebook やペイパーバックを出版していきます。