文身
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文身

好色で、酒好きで、暴力癖のある作家・須賀庸一。業界での評判はすこぶる悪いが、それでも依頼が絶えなかったのは、その作品がすべて“私小説”だと宣言されていたからだ。他人の人生をのぞき見する興奮とゴシップ誌的な話題も手伝い、小説は純文学と呼ばれる分野で異例の売れ行きを示していた…。ついには、最後の文士と呼ばれるまでになった庸一、しかしその執筆活動には驚くべき秘密が隠されていた―。真実と虚構の境界はどこに?期待の新鋭が贈る問題長編!


¥1,760
祥伝社 2020年, 単行本 311頁
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著者: 岩井圭也

(1987年 - )2018年、岩井圭吾名義で投稿した『永遠についての証明』で第9回野性時代フロンティア文学賞を受賞しデビュー。受賞時のペンネームは岩井圭吾だったが、受賞作の出版に際して現在の名義に改めた。

岩井圭也の本
2020.
09.20Sun

文身

少し前怪人二十面相をモチーフにしたミュージカルを観た湿り気のあるゴシック・ロマン的な舞台はとても日本らしい肌に馴染む世界だったこの小説を読んだときに後味がどこか似ていると思った

物語の設定にゴシック的な要素はない描かれるのは昭和の一地方に生まれた裕福とはいえない兄弟将来への希望もない平凡な暮らしから逃げ出したい弟と兄の人生だ
新天地である東京で彼らは透明のマントをまとう弟のつくる小説家のマントによって兄弟の日常には艶めいたフィルタがかけられた故郷である日本海の波音や潮の匂いに洗われることがあってもその艶は失われない兄弟は小説という虚構の淵にいて上がってこようとはしない

何が虚構で何が現実かなんて実はどうでもいいのかもしれませんよ
そう編集者が語る場面がある言われたほうにすれば乱暴すぎる言葉だ小説に生きることと小説を生きることは同じ天秤に載らないそれでも編集者の台詞に頷かされるのはこの小説の真の主役が小説だからだろう兄弟の人生も彼らを囲む人間もすべては小説のために捧げられる兄が死んでも小説は違うかたちで受け継がれる人生を吸い取られたとえ名声は残せたとしても彼らの後にまで生き残るのは小説であり虚構だ人間の手には負えない
その姿ない怪物に怖れと美を感じてしまう私もまた自身を何かに捧げることに憧れを抱いている


学生時代より児童文学を学ぶ。長い休みをはさみつつ創作を続け、2014年より、Webサイト「note」にて作品を公開。代表作に『きゅーのつれづれ』『手品師の弟子』『にんぎょばなし』など。2019年現在『鳥の国のはなし』を連載中。愛読書はダイアン・セッターフィールド『13番目の物語』、谷崎潤一郎『細雪』。好きな作家は小林信彦、庄野英二、イタロ・カルヴィーノ。
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