文身
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文身

好色で、酒好きで、暴力癖のある作家・須賀庸一。業界での評判はすこぶる悪いが、それでも依頼が絶えなかったのは、その作品がすべて“私小説”だと宣言されていたからだ。他人の人生をのぞき見する興奮とゴシップ誌的な話題も手伝い、小説は純文学と呼ばれる分野で異例の売れ行きを示していた…。ついには、最後の文士と呼ばれるまでになった庸一、しかしその執筆活動には驚くべき秘密が隠されていた―。真実と虚構の境界はどこに?期待の新鋭が贈る問題長編!

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著者: 岩井圭也

(1987年 - )2018年、岩井圭吾名義で投稿した『永遠についての証明』で第9回野性時代フロンティア文学賞を受賞しデビュー。受賞時のペンネームは岩井圭吾だったが、受賞作の出版に際して現在の名義に改めた。

岩井圭也の本
2020.
09.20Sun

文身

少し前、怪人二十面相をモチーフにしたミュージカルを観た。湿り気のあるゴシック・ロマン的な舞台はとても日本らしい、肌に馴染む世界だった。この小説を読んだときに、後味がどこか似ていると思った。

物語の設定にゴシック的な要素はない。描かれるのは昭和の一地方に生まれた、裕福とはいえない兄弟。将来への希望もない、平凡な暮らしから逃げ出したい弟と兄の人生だ。
新天地である東京で、彼らは透明のマントをまとう。弟のつくる小説家のマントによって、兄弟の日常には艶めいたフィルタがかけられた。故郷である日本海の波音や潮の匂いに洗われることがあっても、その艶は失われない。兄弟は小説という虚構の淵にいて、上がってこようとはしない。

「何が虚構で何が現実かなんて、実はどうでもいいのかもしれませんよ」
そう編集者が語る場面がある。言われたほうにすれば乱暴すぎる言葉だ。小説に生きることと、小説を生きることは同じ天秤に載らない。それでも編集者の台詞に頷かされるのは、この小説の真の主役が「小説」だからだろう。兄弟の人生も彼らを囲む人間も、すべては小説のために捧げられる。兄が死んでも、小説は違うかたちで受け継がれる。人生を吸い取られ、たとえ名声は残せたとしても、彼らの後にまで生き残るのは小説であり虚構だ。人間の手には負えない。
その姿ない怪物に怖れと美を感じてしまう私もまた、自身を何かに捧げることに憧れを抱いている。


学生時代より児童文学を学ぶ。長い休みをはさみつつ創作を続け、2014年より、Webサイト「note」にて作品を公開。代表作に『きゅーのつれづれ』『手品師の弟子』『にんぎょばなし』など。2019年現在『鳥の国のはなし』を連載中。愛読書はダイアン・セッターフィールド『13番目の物語』、谷崎潤一郎『細雪』。好きな作家は小林信彦、庄野英二、イタロ・カルヴィーノ。
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