ベンドシニスター
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ベンドシニスター

独裁的警察国家で、運命を弄ばれる主人公クルークと息子。やがて魔の手が息子を人質にとり…。ナボコフの品切書の中でもっともリクエストが多い、愛についての美しいファンタジー。


¥1,980
みすず書房 2001年, 単行本 291頁
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なんか東北弁みたいな題名だよね

読んだ人:杜 昌彦

ベンドシニスター

香港やミャンマーやアフガニスタンのことを考えながら読んだ妄念がましい過去への郷愁に囚われた老いた独裁者やウクライナのことも思った筋の通らない理屈を押しつけられて身近なひとたちが次々に連れ去られて戻らなかったりまだ子どもといっていい教養のない若い男女が国家権力を笠に着てひとの家に土足で上がり込み狼藉をふるったりする描写はブルガーコフの小説にも出てきた当時の多くのロシア人には笑い飛ばすしかないようなそしてそれすらも許されぬような個人的な記憶だったのだろうよく似た笑いでもブルガーコフには緊迫した残酷さやそれを堂々と語る呆れるほど率直な誠実さ重圧をはねのけようとする力強さがあったところがこの小説のプロットは語られる状況にふさわしからざるほど妙にのんびりしている語り手が主人公を救う結末も優しすぎる見聞きした経験をそのまま語るにはあまりに個人的すぎたのか。 『アーダではじめてナボコフを読んだときは心の代わりに特殊なこだわりを持つ人物が書いた小説だと思ったユーモアも笑いを意図したのは窺い知れるがほんとうに笑えるのは著者だけではないかと疑わせたところがこの小説は言葉へのこだわりや情景描写に見られる尋常ならざる感性こそおなじだがプロットの狙いどころは拍子抜けするほど素直だ主人公は知的階級特有の話し方をするために同等の教育を受けぬひとびととは通訳なしには会話が成立せぬ点を除けば体の弱い同性愛者の級友を集団でいじめたりするようないかにもマジョリティ側の屈強な体格の定型発達者として語られる妻や子を愛し全世界であった彼らの死に打ちのめされたり怒り狂ったりするごくまっとうな家庭人だ作劇の重点は主人公あるいは彼に共感する語り手の内面にあって狂った社会はある意味その孤独を照らし出すための舞台装置にも見える作中のユーモアはわかりやすくただ笑えないだけだ舞台装置としての空想世界といい喪われた家族への想いといい去年を待ちながらを連想したおそらくディックのほうがナボコフの影響を受けたのだろうけれど個人の独自性が許されずだれもが何らかの共同体に属していなければ許されぬ社会は民主主義の象徴たる議会を襲撃させたプラットフォームのアルゴリズムを連想させた悪夢は作家の創造した世界だけであってほしい

(2022年02月19日)

(1975年6月18日 - )著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、総勢20名以上の協力を得てブラッシュアップした『血と言葉』(旧題:『悪魔とドライヴ』)が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。代表作に『ぼっちの帝国』『GONZO』など。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。
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AUTHOR


ウラジーミル・ナボコフ
1899年4月22日 - 1977年7月2日

帝政ロシアで生まれ、欧州と米国で活動した作家・詩人。米国文学史上では亡命文学の代表格の一人。自作の翻訳も手がけ、大小を問わず改作を多く行ったのみならず、その過程で新たに生まれた作品も存在する。