すっげーえぇおもしろかった。 エンターテインメント小説の大傑作。 よっく調べてあるなぁと感心した。 夫婦間の感情というか大人の恋というか、 そういうのが盛り込まれていて、 若者の恋よりもむしろそっちのが色気があるのが獅子文六のすごいところ。 現代の日本の小説家にそういうの書けますか。 書けないでしょう。 当時の価値観、 倫理観が枠組みとしてはありながらもそこから不思議と自由なのも彼らしい。 作家は周縁から観察するものだとアーヴィングが書いていた。 獅子文六はまさにそのように書く作家だよね。 年長の女性と若い娘の会話がうまい作家でもある。 この小説ではめずらしく父と息子の会話が描かれる。 これがまたいいんだ、 ちょっと理想化されすぎだけどね。 しかもこのお父っつぁん、 じつに男前なんだよ。 欠点といえば食いしん坊なくらいで。 こんなおっさんになりたいねぇ。 悦ちゃんのその後を思わせるガールフレンドがまたいい。 よくも悪くもすごく女の子なのに肝心なところは逸脱しないおっ母さんもいいし、 適度に駄目でまっすぐな息子もいい。 甥っ子を教育しようとする華僑のおじさんも素敵だ。 やっぱりね、 小説はこうでなくちゃあ。 人間が活き活きしてなきゃ駄目だよ。 食べ物の描写がまた美味しそうでね。 戦前のてんぷらは旨かったんだろうなぁ。 明治生まれの祖父が子ども時代に喰ったベーコンの話をしていたけれども、 昔はほんとうに旨いものがあったんだな。 家族がほんとうの幸福を迎えてからの転調とやけにあっさりした破滅的な結末。 巧みな構成! そして喜劇的な台詞で締める。 うまいねぇ。 小説は、 喜劇は、 こうでなくちゃ。 これが本物の小説だよ。
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バナナ
by: 獅子文六
お金持ちの台湾華僑の息子、龍馬は車が欲しい大学生、そのガールフレンド、サキ子はシャンソン歌手としてデビューしたいが、青果仲買人の父の許しが得られない。そんな二人の夢を叶えるのはバナナ?ひょんなことからバナナの輸入で金儲けをすることになったのだが、そこへ周囲の思惑が絡み、物語は意外な方向へ!テンポの良い展開に目が離せないドタバタ青春物語。
¥968
筑摩書房 2017年, 文庫 432頁
特集: スラップスティック!
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読んだ人:杜 昌彦
(2017年09月21日)
(1975年6月18日 - )著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、総勢20名以上の協力を得てブラッシュアップした『血と言葉』(旧題:『悪魔とドライヴ』)が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。代表作に『ぼっちの帝国』『GONZO』など。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。
『バナナ』の次にはこれを読め!