吉田篤弘
1962年5月4日 -
日本の作家。妻の吉田浩美との共同名義クラフト・エヴィング商會としても活動。2001年、クラフト・エヴィング商會の仕事として『稲垣足穂全集』『らくだこぶ書房21世紀古書目録』により第32回講談社出版文化賞ブックデザイン賞を受賞。2000年代からは単独名義の著作を多数発表し、2009年に 『つむじ風食堂の夜』が映画化されている。
おるもすと
もうほとんど何もかも終えてしまったんじゃないかと僕は思う。間違っていたらごめんなさい。
僕は「こうもり」と呼ばれ、崖っぷちの家にひとりで暮らしながら、石炭を選り分ける仕事をしている。高級な石炭である〈貴婦人〉を見つけ出す天才だった祖父が亡くなり、家と仕事を引き継いだのだ。机と電話機しか置いていない〈でぶのパン屋〉の固いパンを、毎日食べるようになったある日、公園のベンチで居合わせた体格のいい男のひとに英語で話しかけられた。が、意味はさっぱり理解できない。長い話の最後に、彼はひと言「おるもすと」と云った。