D.I.Y.出版日誌

連載第87回: メッセージ

アバター画像書いた人: 杜 昌彦
2017.
10.22Sun

メッセージ

iTunes で SF 映画を2本観たまず月に囚われた男』、 これはひどかった低予算で撮ってえらいですねというだけの映画後味が悪かった通信を妨害する塔を建ててまでわざわざ本物の通信機を設置する意味がわからない吊り下げ式のロボットというアイディアだけはよかったあとはなんのひねりもなくて逆に驚かされたうーんでも 500 万ドルっていうほど低予算か? たいした話じゃないんだしもっと画面に手を抜いてもよかったのではエド・ウッドみたいに内容もその程度なんだからセットをあれだけ SF 風にする意味がわからなかったヘリウム輸送用のロケットに人間を乗せたら死ぬだろうとも思った結末もちゃちだった低予算云々ではなく発想がなぜ評判がいいのかわからない

次にメッセージを観たこちらは傑作ではあると思うヴォネガットとソラリスを連想した後者は水のでてくる眠くなるロシア映画のほうじゃなくて原作のでも人間に寄せてあるのでソラリス感はあんまりないかなヴォネガットのほうは宇宙人の造形といい主題といい強烈に似ているけれども連想されると逆に困るのでは映像的には未知との遭遇とかアビスとか2001 年とかそういう古典の文法にお行儀よく従っている気がしたそっちのほうは高尚に見せるためがんばって寄せた印象この監督ならなるほど伝統芸能の一種としてブレードランナー続編を撮るのにふさわしい信頼できると思ったあとコンタクトかな女性の学者が主人公の元ネタとしてはあらゆるお手本から逸脱しない品のよさ

統合失調症の前駆症状といわれる既視感が子どもの頃からずっと頻繁にある過去も未来も現在も生まれる前と死後の無もつねに共にあるそういう感覚のなかで生きているとこの物語は生理的に実感できるヴォネガットもアイディアとしてはおなじ感覚について語っているけれども生理的にはヴォネガットよりこの映画の見せ方のほうが近い文字が円形で重要人物の名前の構造と物語の構造や見せ方とを思わせるのもよかったこれはたまたま演出の意図と合致したのだと思うおれは生まれるときの記憶があるのだけれどばかうけに進入するイメージはおそらく意図的にそういうふうに見せている女性を主人公にしてそのような生理的感覚を見せる映画としてはゼロ・グラビティに似ていたあの映画もシンプルでよかった。 「女性に観てもらえる SF 映画という意味で同系列の企画といえる

でもこいつら結局なんのために訪れたんだろういちおう説明はあるしあの中国人の勇気ある行動といっていいんじゃないかなとおなじ理屈なのだろうけれどもお行儀がよすぎて説得力がなかった似た趣向のインターステラーのような哲学性は感じられなかった人類があと三千年も存続しているわけがなかろうというかヴォネガットだよなぁと気づいてしまうとせっかくのいい話がなんか滑稽に見えてしまうトラルファマドール星人かよ⋯⋯と発想としては同一でありながらインターステラーではそのようなことはないレムのおそらく当時の政治的な発想であるところの人間性を拒絶する異質さやヴォネガットのそういうものだという諦観と較べるといかにも娯楽作品的なわかりやすさ受け入れやすさがどうしても幼い印象につながるいい話なんだけどねでもこの耄碌して涙もろくなったおれが泣けなかったのだからやはりそれなりではある古典を下敷きにした文法といい語られる内容といい全体にお行儀がよすぎるのだちなみにインターステラーでは泣いた


(1975年6月18日 - )著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、総勢20名以上の協力を得てブラッシュアップした『血と言葉』(旧題:『悪魔とドライヴ』)が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。代表作に『ぼっちの帝国』『GONZO』など。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。