D.I.Y.出版日誌

連載第146回: Amazon PODとGoogle広告

アバター画像書いた人: 杜 昌彦
2018.
09.29Sat

Amazon PODとGoogle広告

フランスの某作家が政治的な理由から出版社に拒否された原稿を CreateSpace で出版しゴンクール賞の残念賞もしくは反ゴンクール賞のような位置づけと言われるルノードー賞の候補になったなじみ深いところでは 2007 年にダニエル・ペナックが獲った賞で日本でいえば芥川賞直木賞に対する初期の本屋大賞といったところか歴史や権威は較ぶべくもないが)。 この件に対しさながら建設中のマクドナルドに破壊行為を行った農民のように独立系の書店団体が抗議の声明を発表したそうだ。 「独立系なる単語が何をさすのかは知らないがどうして CreateSpace ではなく彼らがその本を出版しなかったのかせっかく Amazon の権力から自由なら自分たちが扱えない本が金を稼ぐことに抗議するよりも自分たちしか扱えない本を受賞させるほうが有益ではないか

グローバリズムが文化を破壊するという危惧もわからなくはないAmazon は必ずしも読者を向いた棚づくりをしない嗜好ではなくクリック機会と経済効率の最大化を目的とし本を経済価値でしか捉えない寡占ストアが客に何をどう見せたいかで本の価値が決まり読書からそれ以外の文脈嗜好やひとそれぞれの事情は完全に排除される消費者は読むために買うのであって経済価値のために買うのではない顧客は見せられたものしか知り得ないから雪だるま式に増大する乖離は表面化しないしかしスターバックス上陸にイタリア人は冷笑的だったというし1999 年を境にフランスの食生活が実際に破壊されたとも聞かないだれもが同じ時間に家族と茶の間で同じ歌番組を見ていた時代ならよかったろうがいまは 2018 年だひとそれぞれの事情に合わせたコンテンツ店があってしかるべきだAmazon は LGBTQ や Time’s Up の時代にすでに取り残されつつある断絶を埋めるのは嗜好という読書の文脈に基づく棚づくりだが彼らにその能力はないというよりも発想があればすでに自動化で実現しているのでヴィジョンがないと言うべきかアルゴリズムの暴走による株価暴落のようにどこかの時点で破綻するだろう

あるいは永久にビッグブラザーの栄華がつづくのかもしれないであれば出版は地下に潜るしかない幸いわれわれには epub という汎用規格がある問題は流通手段だ独自の選書をする個人経営の電子書店がなぜないのかモノとしての性質が主体にならざるを得ない商品であれば価値の本質が情報にあったとしても在庫さえあれば極端な話売ることができる読み飽きた本を自宅のガレージにならべて値札をつけ通行人に売ってもいいモノとしての制約がなくなると権利の概念を曖昧にできなくなる一冊の本につながるすべての権利者に話をつけなければならない実現するのは巨大資本の力で Amazon にはそれがあるあるいは取次が大資本しか相手にしないのかもしれない電子書籍は実店舗や物理空間を占有するリアル在庫を必要としない。 「ことりつぎの電子版のような仕組みでアフィリエイト感覚で書店をやれないものかAmazon に目をかけられて大金を稼ぐことと好きな本と同じ売場に並んで理想の客に読まれることどちらかを選べといわれたら躊躇なく後者を選ぶそのような売場を人格 OverDrive で実現しそこで自著を扱いたい現状は Amazon 依存のアフィリンクでしかないのがもどかしい

客筋改善のために広告を試行錯誤している突っ込んだ金に見合う成果はないが学習機会が得られるので無駄ではないランディング先をサイトの商品紹介ページにすると Amazon へのボタンは一切クリックされないランディング先を Amazon にするとサイトの紹介ページの閲覧は微増しボタンのクリックもわずかながら発生する客は Amazon を見た上で調べてから購入するか否かを決めるのではないかFacebook ページにいいねを募る広告も新たな導線を得るには案外ばかにならない何人かは記事を読んでくれるかもしれないしあわよくば刊行物に関心をもってくれるかもしれない広告をしなければその縁も生じないGoogle 広告の掲載場所は重要だいくつかの書評サイトが掲載率もクリック率も高くなおかつ客層が好ましいブクログのほうが表示率もクリック率も高いが利点はそれだけだ青空文庫を読めるサイトは無料の読み物を求める老人ばかりがクリックする対象年齢と世帯収入から金のない高齢者を除外し掲載場所からそのサイトは除外した無料配布と Google 広告との組み合わせはわずかながら体感できるほどの効果がある有料コンテンツとの組み合わせは授業料と割り切るのみだ自分で描いた装画がまずかったせいもあるOGP で切り取られるとグロテスクになる価格も高すぎたしかしあの装画あの価格でやりたかったので後悔はしていない

印刷版の取り組みも客筋改善のためだ名刺代わりに手渡せる利点は大きい電子版の選択が現実的に Kindle を無視できないため印刷版も Amazon に依存している彼らが朝日に書かせた記事の意図が気になっているあたかも個人出版に関係があるかのような報道をさせたのは今後の展開に含みがあるからだろうAmazon POD は CreateSpace や KDP Print と異なり企業向けのサービスで個人には窓口を開放していないヴァニティプレス的な仲介業者を通すか法人になるしかない法人向けの窓口を外部企業を通じて個人が使うというのが土台無理である上に業者はどうやら BtoC の経験が浅いようで会話の成立さえ困難な担当者をひたすら煩わせなければ何ひとつできないのは一年前の経験でわかっている何をやるにもシステムの不備だらけで CreateSpace なら一日で終わる作業にひと月かかったあげくに追加料金を支払って自前の ISBN を使っても出版者表記はその業者になると後出しで知らされたりしたCreateSpace が米国 KDP に統合されて日本語が使えなくなり法人向けの Amazon POD を使うよりほかに手立てがなくなった法人化のハードルは高すぎるし KDP Print が使えない現状に変化はない日本語のヘルプドキュメントの充実ぶりや利幅の大きいアマチュア作品の表示機会を強化しているところから見ても Amazon がリリース時期を窺っている気配はあるがいつまでも待ってはいられないので五万円を支払って業者を使うことにした

黒い渦をざっと読み返したら思ったより書けていた挿話が少なすぎて短いのだけが難点だ短編をいくつか加えて出し直そうと考えたが使える短編がなかった古すぎるか稚拙すぎるかのいずれかだあえて手を加えずに収録するのも手かもしれないが躊躇する胸を張れるものだけを売りたいサイトにせよ小説にせよこれまでの仕事は世間に対してなんら恥じるところはないあのひとのようになりたいという理想像も参考にすべき前例も実在しないので試行錯誤はやむを得ない努力が他者からの評価やビッグブラザーの寵愛に結びつかないのは目に見える指標の上では失敗だがやりたいことの上では失敗ではないうまくいかないことを切り棄て好ましいことを選ぶのが重要だその取捨選択の積み重ねが有効だと信じる金を稼ぐのが人格 OverDrive の目的ではないいいと思うことをいいと思う流儀でやりたいだけだ書いて出版することで自分自身であることを肯定したい突きつめれば結局そういうことなのだKindle が何を意味する単語であろうが原稿は燃えない


(1975年6月18日 - )著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、総勢20名以上の協力を得てブラッシュアップした『血と言葉』(旧題:『悪魔とドライヴ』)が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。代表作に『ぼっちの帝国』『GONZO』など。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。