お薦め!
おるもすと
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おるもすと

もうほとんど何もかも終えてしまったんじゃないかと僕は思う。間違っていたらごめんなさい。
僕は「こうもり」と呼ばれ、崖っぷちの家にひとりで暮らしながら、石炭を選り分ける仕事をしている。高級な石炭である〈貴婦人〉を見つけ出す天才だった祖父が亡くなり、家と仕事を引き継いだのだ。机と電話機しか置いていない〈でぶのパン屋〉の固いパンを、毎日食べるようになったある日、公園のベンチで居合わせた体格のいい男のひとに英語で話しかけられた。が、意味はさっぱり理解できない。長い話の最後に、彼はひと言「おるもすと」と云った。


¥1,650
講談社 2018年, 単行本 114頁
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ほとんど始まりで終わり

おるもすと

吉田篤弘の小説の中ではおるもすとがいちばん好きと言うと吉田作品ファンの方にはちょっと変わっていると思われるかもしれない何しろこの作品物語がはじまっていくようなおわっていくような感じでふわっとして結局どこにも着地しない吉田作品にはそういう傾向はあると思うけれどこれは特にそうだ

おるもすと= almost

意味を検索すればいちばんにほとんどと出てくるほとんど終わってしまったようなほとんど何も起きていないようなそれでいて何かおるもすととしか言い様のない空気の塊のようなものがそこにある

主人公は祖父の残した古い家に住んで祖父のしていたのと同じ石炭の仕事を一日おきにしている職場ではこうもりと呼ばれている家は崖の上にある崖の下には墓地が広がり主人公は墓のひとつひとつを数えている謎のパン屋のパンを三日かけて食べ休日には新聞を拾って読む祖父は物語の始まる少し前に亡くなっている祖父と主人公の住んでいた家はかなり傷んでいて倒壊の危険がある主人公がその家の解体に同意する書類に判をしたところで物語は唐突にとぎれる

あらすじをまとめてしまうと味気も素気もなくなってしまうけれどこの物語の一行一行が私には愛おしいひとり暮らす主人公の淡々とした日々すべて終わってしまった後のような諦念もこれから何かがはじまりそうな予感もただすべてが淡いその淡さを私はよく知っているような気がするのだけれどそれが何かは分からない好ましいような懐かしいような少し悲しいような静かな気持ちになる

この物語は著者の吉田篤弘さんにとっても特別なものだったようだ吉田さんはこの物語の続きを書こうとして十二年間もテキストを持ち歩きながらついに完成しなかったという書こうとした続きには他の吉田作品の一部になったものもあるそうだ

でも私にはこの物語はこのままであるのがいいように思えるこの単行本を出した講談社の方も言っていたそうだがこの物語はこれできちんと終わっていると思うそしてこれ以上何を加えても削ってもこの空気が壊れてしまうような絶妙なバランスを保っている吉田さんがどうしても続きを書けなかったのもそういうことなのではないだろうか

未完成のようでいて絶妙に完成しているその不安定でいて揺るぎない感じこそが私がこの物語にかれるいちばんの理由かもしれない

(2022年09月25日)

寝る前の読書を愛する本好き。趣味で一箱古本市に出たり、ツイッターで本をオススメしたりしている。人格OverDriveに憧れてダメ元でお願いしたら書かせて頂けることになってしまい震えている。永遠の前座。
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AUTHOR


吉田篤弘
1962年5月4日 -

日本の作家。妻の吉田浩美との共同名義クラフト・エヴィング商會としても活動。2001年、クラフト・エヴィング商會の仕事として『稲垣足穂全集』『らくだこぶ書房21世紀古書目録』により第32回講談社出版文化賞ブックデザイン賞を受賞。2000年代からは単独名義の著作を多数発表し、2009年に 『つむじ風食堂の夜』が映画化されている。

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