すべての見えない光
ISBN: 9784105901295

すべての見えない光

ラジオから聞こえる懐かしい声が、若いドイツ兵と盲目の少女の心をつなぐ。ピュリツァー賞受賞作。孤児院で幼い日を過ごし、ナチスドイツの技術兵となった少年。パリの博物館に勤める父のもとで育った、目の見えない少女。戦時下のフランス、サン・マロでの、二人の短い邂逅。そして彼らの運命を動かす伝説のダイヤモンド――。時代に翻弄される人々の苦闘を、彼らを包む自然の荘厳さとともに、温かな筆致で繊細に描く感動巨篇。

¥ 2,970
新潮社, 単行本 526頁
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著者:アンソニー・ドーア

(1973年10月23日 - )『シェル・コレクター』(2002)でO・ヘンリー賞、B&Nディスカバー賞、ローマ賞、ニューヨーク公共図書館ヤング・ライオン賞。『メモリー・ウォール』でストーリー賞を受賞。『すべての見えない光』で2015年度のピュリツァー賞を受賞。

アンソニー・ドーアの本
2017.
06.15Thu

すべての見えない光

いま日本で起きつつあることが書かれていて、読みすすめるのがつらかった。目が見えない娘がひとりで出歩けるように街の模型を制作する父親が登場します。そのための測量をしていた姿を隣人に通報されて彼は逮捕されます。法律は助けてくれません。わたしたち日本人はいまそのような社会へ向けて踏み出しました。悪人を排除し社会を守るよい変化だと信じて。

すでに警察がとある創作者に「話をした」という事例が報じられています。性犯罪を促す作品だったという理由です。性暴力を礼賛する作品を世に出す側や、消費者に届ける手助けをする側、それをよいものとして受容する消費者は、人間性を疑われてもおかしくありません。しかしそれと権力が口出しをすることは別です。いまこの時点ではまだそのような悪質な出版の話であり、わたしやあなたが日常で行っているpublish(ツイートも含まれます)には関わりがないかに見えます。しかし物事は必ずひとびとの同意を得られやすいところからはじまります。

わたしたち人間はひとりひとり違います。生まれながらに別々ですし、生きていれば異なる経験をします。いわばそのひとだけの事情に生きていて、他人からは「わかりにくい」のです。「わかりにくい」相手を知って理解しようと努めるのがコミュニケーションです。出版や読書もそのひとつのかたちです。「わかりやすさ」はそれとは逆です。自分とは違うものをただ否定します。目の前から排除(「淘汰」という言葉で語られることもあります)して解決しようとします。それは暴力です。

「わかりやすさ」の先にあるものは何でしょうか。わたしたちは自ら喜んで飛びついたことをきっと忘れます。その状況をつくりだしたことを認めません。まさか銃口が自分に向けられていたとは夢にも思いません。まして自分で引き金を引いたとは。獅子文六はプロパガンダへの協力を依頼してきた軍部に、「軽い」という印象を抱いたことを書いています。その「軽さ」「わかりやすさ」「受け入れやすさ」にわたしたちは侵蝕されていませんか。わたしたちの多くがこの変化をよいことだと信じている事実が何より怖ろしいです。


(もり まさひこ、1975年6月18日 -)著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、藤井太洋氏、十市社氏らによる指導を受けた『悪魔とドライヴ』が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。最新作は『ぼっちの帝国』。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。
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