D.I.Y.出版日誌

連載第333回: アフターアワーズ

アバター画像書いた人: 杜 昌彦
2021.
05.21Fri

アフターアワーズ

しかし漫画みたいな成り行きだな原稿について要望を出しうまく伝わらなかったので補足の長文メールを出したそれが何度再送しても文字化けした時間のむだなので細かい説明をはしょって要点だけ書いて送り直したそうしたら文字化けについてのくだりを作品を否定する文章であるかに読まれた文字化けが直らないどうしてもだめだと書いたら作品がだめだと書いたことになった。 「どう直しても文字化けするだめだと書いたのにこの作品はどう直してもよくならないだめだと受けとられたのは文字化けについての説明につづけて話題が変わる旨の断りをせぬまま業務上のその後の対応について書いたせいだろうファイル形式の違いが文字化けを招く可能性を前提として共有しておらず、 「次からテキストファイルで送ってくださいがあたかも人格否定の文言であるかに受けとられた要望は独自の視点を活かした文章に直してほしい旨だった後半で焦点が定まって独自の主題が語られるそこはいいのだが前半はだれでもいいそうな感情的な悪口にとどまりせっかくの独自性を損ねていた読んだものに対する意見はいつも伝えているけれど書き直しまで求めるのは基本的に悪意の書き方に対してのみだ柳楽先生の随筆には英語や文学理論の素人の観点から口を出すことがあるがそれはまた別の話)。 特定のジェンダーや職業に対する悪意のようなものは掲載したくないそのひとなりの切実な必然性があって自覚的に向き合っていれば掲載する差別意識や批判ではなく悪口の水準にとどまっていてかつ発想に切実さや必然と呼べるほどの独自性が見出せない作品には批判として成立するようにもしくは本来の切実さや独自性が伝わるように書き直しを求める書くなというのではなく書こうとすることが実現できていないから手を入れていただきたいという要望だすると揉めるなぜ美点ではなくそこに固執するのかと驚かされる経験をしたのはこれで二度目だ仲介者を挟んだために固執しているのがだれなのか見えにくいこともあり文字化けについての言及を作品への中傷と捉えられた点からしても正しく伝えていただけたのか不安ではあるあるいは悪意こそが書き手あるいは仲介者にとって大切な思いで凡庸さこそが譲れぬ部分だったりするのかもしれない書くことも編集も揉めてまでやることだとは思わない独自性というのはもちろん主観でしかないしだれもが口にする言葉のほうが世間では理解されやすく、 「権力に抗う個性的な表現と評価される傾向があるのも知ってはいるたとえば全裸監督のような作品の人気ぶりやLGBT 法案への自民党議員の政治的に抹殺されるから言えないという状況が生まれつつある」 「どんな発言をしても大丈夫な社会をつくるべきだといった発言などからもそれは窺える掲載する場所は世間でもなんでもなく個人が金と労力を費やして実現している場所なのだから個人の主観でいいと考えているそれはたしかに暴力ではあるのだけれどそもそも編集とはそういうものでだからこそ前もってあいだにひとを挟むなどの防護策を講じたりそれが防護策である旨をたびたび念押ししたりするところがそれがどんなリスクへのどんな念押しであるのかそんな文脈はいくら言葉を費やしたところで経験に依拠するところが大きすぎて主観を免れようがなく社会的にはまったく意味をもたないやはり自分には向いていなかったし振り向ける力の余裕がもうないひと区切りついたら他人とかかわるのはもうやめよういいものをいいと保証するためには自分の信ずるところのいいに責任をもたねばならないそうでなければせっかくの作品のよさが意味をなくしてしまうその指摘をする資格がなかった自分ひとりで完結できる物事であれば失敗しながら努力するのもいい他人が介在することがらであれば暴力になる加害性をそれなりに自覚していたのでそれなりに対策を講じたり何度も念押しをしたりしたそれがことごとく裏目に出て機能しなかった仕事に振り向ける力の配分も考えるべきだった本業できつい部署に異動になったのでそれまでにやれたことがやれなくなったぼろぼろの状態でわずかな時間にやれることはかぎられているでもそんなのは取引先には関係がないことでどんな事情があろうが百パーセント全力でその相手が全世界であるかのように対応しなければならないそのように向き合わねばたしかに失礼になるそれができないのであればやる資格がないということだ結論として人格 OverDrive はいずれ個人サイトに戻すことにする販促やソーシャルメディアについてくよくよ悩んでいたけれどこれで結論が出た今後は他人とかかわらないだれにとってもいい結果にならないからだそれにしてもあれをそのまま載せることが本当に若い書き手を守ることになったのだろうか読者を傷つけそれによって当人を傷つけてまでいわせたいことだったのだろうか理解に苦しむ手間としてはそのまま公開したほうが百倍楽だった


(1975年6月18日 - )著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、総勢20名以上の協力を得てブラッシュアップした『血と言葉』(旧題:『悪魔とドライヴ』)が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。代表作に『ぼっちの帝国』『GONZO』など。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。