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愚か者同盟
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愚か者同盟

1960年代ニューオーリンズ。肥満の30歳無職イグネイシャスは、母が車で他人の家に突っ込んで多額の借金をこさえ、その返済のためしぶしぶ就活を始める。潰れかけのアパレル工場、次いで零細ホットドッグ移動販売業者で職を得るが、仕事を放り出してデモを扇動したり、ホットドッグをつまみ食いした挙句に他人に屋台を押し付けて映画に出かけたりするなど、好き勝手やり放題。警察に追われるようになったイグネイシャスは、一癖も二癖もある奇人変人たちを巻き込んだり巻き込まれたりしながら逃亡劇を繰り広げ、ニューオーリンズの街に大騒動を巻き起こす――!!! デヴィッド・ボウイも愛読した、全世界200万部超のロングセラー&1981年度ピュリツァー賞受賞作。


¥4,180
国書刊行会 2022年, 単行本 545頁
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鳥小屋に突っ込む暴走車

愚か者同盟

異常者が社会への適応を迫られて苦境に陥るが弱者を喰い物にすることで乗り越えるという悪漢ピカレスク小説この結末に胸の空くような快感を覚えて喝采するかはあなたの人間性にかかっている刊行と同年の映画ブルース・ブラザーズでは現代社会に適応できない悪党がやはり有害な男らしさを誇示しようとする警官らとともに当時まだ目新しかったであろうショッピングモールを破壊する逃げ惑う買い物客や茫然とする商店主を指さして当時の客は笑ったのだろう胸の空く痛快なギャグとして受容されたのだそういう時代だっただからこそ本書は公民権運動の時代ではなく 1980 年に出版された

 母親が哀れすぎる怪物を産んだことでこれほどの罰を受けるなんて当時は行政の支援も地域社会の理解もなかったひとはそうであってほしい」 「そうでなければ困るという願望と、 「事実そうであるの現実とを混同しがちだこの母親もそのように自分を偽ろうとしてごまかしきれずに地獄へ落ちるわたしにだって愛され幸福になる権利がある自分の人生を生きたいという痛切な叫びに胸を締めつけられるマイノリティの扱いもひどい当時の社会が実際にそのようだったのだ黒人ゲイ貧乏人かれらの弱い立場につけ込んで闖入しひっかきまわして不幸にする主人公自分だけでも這い上がろうとたがいに足をひっぱりあう被害者たち邪悪さは疫病のようなもので隔離して根絶しなければ世界に蔓延するのだ

 かくして最後に悪が勝利する

 主人公は大昔にふられた元カノへの憎しみを執拗に蒸し返しいやがらせを目的にわざわざ展覧会へ出向いて女たちに侮辱と暴言をあびせる女性画家に粘着して画廊へ出入りする男をはじめぶつかりおじさんとか痴漢とか女性専用車両に乗り込んでいやがらせする男とか高校生をつけまわしてチマチョゴリを切り裂く男とかバス停で夜を明かそうとした元劇団員の女性を撲殺したマザコン男とかを連想させる自己愛と執拗なこだわり支配欲支離滅裂で尊大邪悪さの条件を主人公はすべてそなえている何もかもを否定する不平を四六時中まくしたて自己愛的な妄想でひとびとを振りまわし尊厳を踏みにじる他人が自分の人生を持つことを許さない捕らえた獲物から吸血鬼さながらに養分を得る弱みにつけ込んで支配し思い通りにならないと破壊する支配か破壊かのどちらの関係かしか知らずまた当然そうあるべきだそうする権利が自分にあると決め込んでいる

 そうした発達特性が幾重にも周到に示される正確な描写と計算高い構成この説得力はおそらく意図されたものだ自身を重ね合わされることも含めて作家もまた実際におなじ病を自覚してだれより冷静に蔑んでいたのではという気がしてならない定職に就かず旅先で自殺し母親の尽力で作品が世に出るなりゆきまで計算したかはわからないが⋯⋯結末では主人公が幼少時から典型的なエピソードを持つ事実と乗り換えた獲物を狡猾にしゃぶり尽くそうとすることとが明確に示される被害者は罠にはまり込んだことに気づかないいや気づいていながら違和感に目をつむるおれは知っている見込まれたカサンドラはだれしも現実にこうなのだあなたがそうでないのはたまたまの幸運にすぎない

 慈善病院なら電気ショック療法を⋯⋯のくだりでルー・リードの受けた治療は当時としてはありふれたものだったと知ったその是非はともかく矯正教育が通用せぬであろうこの主人公にかぎっていえば死ぬまで監禁拘束され治療されるべきだった野に放てば被害者は増えつづけるおれ自身だって謗りを免れ得ない悪態に満ちたこの文章自体が幼児向けレポート用紙に書かれた稚拙な屁理屈にそっくりだと思いませんか? むしろこちらのほうがたちが悪いどんな職も勤まらぬ点ではおなじだけれど主人公は弱者を支配して搾取することにかけては狡猾で目端がきくいわば有能で生産性が高いそのような人物が称賛されアパルトヘイトの金と人名を軽視した自動車で世界一の富豪にまで成り上がる時代を思えばその資質すら持ち合わせぬおれはどうなのか不条理なまでの無能でただひたすらに周囲を混乱に陥れ大迷惑をかけまくっては尻拭いを押しつけ蔑まれ疎まれ憎まれるだけじゃないかなのにまだ生きている何てざまなのそんな浅ましい人なんて世の中にいない主人公のせいで職を失った黒人の台詞が心臓をえぐる。 「ひょっとして俺があのデブチンだったら大変だ! あいつはどうなっちまうんだろう? なあ!

 ああそうともおれはどうなっちまうんだろうねおれもおれじゃなければよかったと心底思うよ⋯⋯

(2022年11月15日)

(1975年6月18日 - )著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、総勢20名以上の協力を得てブラッシュアップした『血と言葉』(旧題:『悪魔とドライヴ』)が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。代表作に『ぼっちの帝国』『GONZO』など。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。
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AUTHOR


ジョン・ケネディ・トゥール
1937年12月17日 – 1969年3月26日

米国の作家。1961年、軍隊でスペイン語話者に英語を教える傍ら『愚か者同盟』を執筆し、除隊後ニューオーリンズに戻り完成させる。出版に至らず、1969年、旅行中に自死。母テルマが作家ウォーカー・パーシーのもとに原稿を持ち込んだことがきっかけで1980年に刊行。翌年にピュリツァー賞を受賞し、全世界で200万部超のベストセラーとなった。

ジョン・ケネディ・トゥールの本