夜の雑記帖

連載第18回: クリスマス舞踏会

Avatar photo書いた人: 一夜文庫
2022.
12.24Sat

クリスマス舞踏会

クリスマスですか⋯⋯クリスマスですねえぇ⋯⋯皆さんさぞかし楽しんでいらっしゃることでしょうとも私ですか? 私はもちろん⋯⋯仕事ですよこんちくしょー!

クリスマスでもというかクリスマスだからこそ仕事を休めない人種がいるサンタさんは年に一度の晴れ舞台だから当然お仕事だとしても我ら店員は本当なら休みたいクリスマスイブにサンタ帽をかぶらされてレジを打つコンビニ店員さんにだって家族もいれば恋人もいるだろうそれでもちゃんと仕事する我らはエライ!  ブランドショップやお洒落なレストランや素敵なホテルのスタッフさん! テーマパークのキャストさん! そして何よりあのサンダースおじさんのチキンのお店の皆さん! あなたがたはエライ! お互い繁忙期がんばって稼ぎましょうイェーイ! そして楽しいクリスマスをお過ごしの皆さん! 浮かれまくってジャンジャンお金を使って経済まわしちゃってください! 冒頭からぶつくさ言ってしまったがイベントのある時にしっかり売らないと店の経営は当然厳しくなるのだだから皆様クリスマスイブくらいお財布のヒモをちょびっとだけでも緩めてください伏してお願いいたしますマジで頼みます本当に!

とまぁクリスマスらしからぬおめでたくないことばかり書いてしまったのでここらで私にだってあるはずの楽しいクリスマスの思い出を振り返ってみよう⋯⋯⋯⋯⋯⋯?⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯!?⋯⋯⋯⋯

⋯⋯無いな!

悲しいまでに何もない中高は女子校で底辺におり大学生になったらクリスマスはバイトに明け暮れてそのまま社会人に突入してしまった私にはクリスマスの楽しい思い出がほぼ皆無だ

はいっ何もっなんにもなんっにもありませんでしたっ!

おしまい

⋯⋯これではあまりに自分が可哀想なので必死に記憶を遡った遡って遡って遡りまくってようやくそういえば小学六年生のときに友達のお母さんがクリスマスパーティーを開いてくれたことを思い出したそこまで遡らないとないのかよ! という突っ込みは勘弁してください⋯⋯

友達のゆーちゃんのお母さんは自宅の一階でスナックを経営している二重の意味でママさんな人だったといっても全然スナックのママさんぽくなくてショートカットでいつも T シャツに G パン姿のさばさばとしたひとだった酒焼けなのか煙草のせいかその両方なのかハスキーな声が少し枯れていてそれがまた彼女の雰囲気にあっていてカッコよかった

そんな彼女が企画してクリスマス会をしてくれるというゆーちゃんはクラスの仲良しの女の子にも男の子にも声をかけて当日は私も含め十人くらいが集まった私たちの住む東京の下町ではクリスマス会なんてオシャレなイベントをわざわざ開催するお家は当時まだまだ少数だったいそいそと皆でゆーちゃんの家に出かけていくと店の二階のフローリングの広い居間は金銀のモールやベルや靴下や雪だるまなどのクリスマスオーナメントで飾られ大きなテーブルの上にはホールのケーキ大量の唐揚げやフライドポテトやタコ焼きにカニかまやチーズや玉子やツナマヨののったお洒落なカナッペが並べられていたさすがスナックのママさんパーティー料理の準備も慣れたものだ 紙コップにオレンジジュースを注いでもらい紙皿にクリスマスチキンならぬ醤油味の唐揚げをこんもり盛ってみんなでワイワイしながら美味しく頂いたやんちゃな下町の小学生たちを前にテーブルの上の料理はすぐに綺麗になくなった

その間にゆーちゃんママはみんなで遊ぶゲームの準備をしていたママが楽しいクリスマス会のために用意してくれたゲームは UNO でも人生ゲームでもなくなんとジェスチャーゲームだった! パーティーの盛り上げ方にプロ意識を感じる料理を食べている間に一人一枚ずつ紙が配られジェスチャーで伝えるお題を書くように言われたその紙をくじ引きに使うような上が丸く開いた BOX に入れてゆーちゃんママがよーくかき混ぜたくじ引き BOX はテーブルの脇にあけられた舞台のような畳一畳分くらいのスペースの真ん中に置かれた一人ずつ順番にこの舞台に上がって BOX から紙を一枚引き紙に書かれたお題を伝えるジェスチャーをするわけだお題を書いた人には答えがすぐ分かってしまうので自分のお題が当たった人への回答権はなしというルールこのゲームの成績順にみんなで持ち寄ったクリスマスプレゼントを選べるというシステムクリスマス会を盛り上げるゲームとして完璧すぎるくらい完璧である

さぁゲームの始まりだ! 小学六年生たちの考えたしょうもないお題が炸裂する。 「遅刻しそうな担任」 「女装した理科教師先生方がここぞとばかりにさんざんいじられる。 「カップルのタコ」 「風邪をひいたパンダさすが小学生アニマル系が大好きだ私の書いたお題は反省するヘビだったちょうど日光猿軍団のお猿が反省というポーズをするのが大流行していた時期だった猿ではなくヘビにしてちょっとひねったところにオリジナリティを感じてほしいこのお題が当たったわんぱく男子のたろっちょは件の反省ポーズをした後に潔く床に転がって全身でうねうねして全力でヘビを表現した。 「ヘビ!」 「ヘビ!」 「反省するヘビ!みんな同時に正解を叫ぶちょっと簡単すぎたようだが全身でヘビを表現するたろっちょ君の小学六年生男子っぷりには今思い出しても胸が熱くなる

さていよいよ私の番になった段ボールから紙を取り出してドキドキしながら開くと⋯⋯そこには明らかに大人の筆跡で日舞を踊るヤ◯ザと書かれていた間違いなくゆーちゃんママの書いたお題だ今の感覚なら子どものクリスマス会でそのギャグは完全に NG だがまだ昭和の気配が色濃く残る平成初期のことなのでお許しいただきたいあと私たちの育った下町にはそこらへんに◯クザの自宅やら組事務所があって彼らは普通に日常にいる存在だったのだ

そうヤ◯ザは普通に知っているしかし小学六年生の私にむしろ問題なのは日舞のほうだった。 「日舞というものが一体何か私には全く分からなかったのだ

その場で凝固する私

微妙になる場の空気

ゆーちゃんママがささっと私の背後に回りこんだたぶん自分のお題がまだ誰にも当たっていないので彼女もこのギャグが小学生に通じるかドキドキしていたに違いない

これが分からないです⋯⋯

私は日舞の二文字を指さしてゆーちゃんママに助けを求めた

これはほら⋯⋯あれだよ! こういうこうゆうやつ!

ゆーちゃんのママはなんだか両手の指をそろえて頭上にかかげてヒラヒラ動かしたり三つ指をついてお辞儀する真似をしたりしたしかし日本舞踊など全く知らない小学六年生にそんなことで日舞は伝わらない

私はとりあえずほっぺたに指でななめの線を書きちょんちょんと短い刻みを入れた。 「ヤ◯ザ!」 「◯クザ!という声が口々に上がる漫画に出てくる典型的なヤ◯ザの顔の傷を表現した私の作戦は成功したしかし問題は⋯⋯日舞。 「日舞って何だ。 「というくらいだから踊りの一種なのだろうが⋯⋯どんな踊りか全然分からないからジェスチャーのしようがないぞ!

再び固まる私

微妙な空気

だーかーら! こういうの! こういうやつだって!

ゆーちゃんママがまだるっこしそうに私の隣にきて床に正座して三つ指をついてお辞儀をした何だか分からないが私もそれを真似するゆーちゃんママはしゃなりしゃなりと立ち上がってピシッと綺麗に指先をそろえた両手を額の辺りにかかげる手首をくるくると返して虚空にちいさい円を描く仕方ないので私もそれを真似したしゃなりしゃなりピシッくるくる⋯⋯ゆーちゃんママはそのまま両手をお腹の前にそろえてキメポーズなんだか和風っぽい動きだが盆踊りではないようだ私も見よう見まねでキメポーズした

見ている友達たちは全員目が点になっているたぶん私の推測だがこの中にその日舞とやらが何か知っているやつはひとりもいない

⋯⋯東京音頭?」 「フラメンコ?」 「カポエラ?」 「だるまさんがころんだ?全然正解が出ないゆーちゃんママはやけくそ気味にじゃあこれ大ヒント!と言ってチントンシャンテンツクテンテンと適当に三味線っぽい曲を歌い出したそしてまた手のひらをくるくるさせて踊り出すゆーちゃんママの歌にのせられながらママを真似して私も踊る⋯⋯

楽しいはずのクリスマスパーティー気がつけば何故か私は友達のお母さんと何だか分からない踊りを延々と踊っていたのだった⋯⋯

私が日舞とは何かをやっと理解したのはかなり大人になってからだったいくつか転々とした職場のどれかに居たいけすかないお嬢様育ちの女子が日舞を習ってるんですぅ日本舞踊いいですよぉとか抜かしているのを聞いてああ! あの時ゆーちゃんママに踊らされたアレは日本舞踊だったんだ!と衝撃を受けたクリスマスに友達のお母さんと日舞を踊る意味が分かってみれば何という和風な展開だろう全然クリスマスらしくないじゃないかでもあの時の子どもたちを全力で楽しませようとしてくれたそしてたぶん自分でも全力で楽しんでいたゆーちゃんママの張り切りっぷりはしゃぎっぷりを思い出すと彼女はお茶目で素敵なひとだったなと思うあれからずいぶん経つし彼女はきっと私のこともクリスマス会のことも忘れているだろうけれど彼女が楽しませようとしてくれた温かな記憶は今も私の中にあって全然楽しいクリスマスのネタのない私を数十年の時を経て助けてくれたのだ人生って何が起きるか分からないな⋯⋯

ゆーちゃんとはすっかり疎遠になってしまったけれど噂に聞いた話では早くに結婚して子だくさんらしいからきっとゆーちゃんママは今年も孫もしくはひょっとしたら曾孫に囲まれて楽しいクリスマスを過ごしていることだろうゆーちゃんやゆーちゃんママやご家族の皆さまそしてこれをお読みの皆さまが楽しいクリスマスをすごされますように

さっ私はバリバリ働いてきまーすっ! 今日お仕事の仲間のみんな! 張り切って稼ぎましょうっ!


寝る前の読書を愛する本好き。趣味で一箱古本市に出たり、ツイッターで本をオススメしたりしている。人格OverDriveに憧れてダメ元でお願いしたら書かせて頂けることになってしまい震えている。永遠の前座。
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