2666

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謎の作家アルチンボルディを研究する四人の文学教授、メキシコ北部の国境の街に暮らすチリ人哲学教授、ボクシングの試合を取材するアフリカ系アメリカ人記者、女性連続殺人事件を追う捜査官たち……彼らが行き着く先は? そしてアルチンボルディの正体とは? 2008年度全米批評家協会賞受賞。

¥ 7,560
白水社
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著者:ロベルト・ボラーニョ

(1953-2003)チリの詩人、小説家。1973年ピノチェトによる軍事クーデターに遭遇したとされる。投獄経験を経て翌年メキシコへ戻る。その後、エルサルバドル、フランス、スペインなどを放浪。77年以降、およそ四半世紀にわたってスペインに居を定めた。2003年死去。

ロベルト・ボラーニョの本
2017.
10.26Thu

2666

やっとのことで『2666』を読み終えた。いやー長かった! こんなに時間と体力を費やした読書は十歳のときの『ひげよ、さらば』以来だ。スケールがでかすぎるのと物理的に重すぎるのとで読書ははかどらなかった。とくに物理的な重さにはまいった。通勤中に読めないどころか手で支えて読むこともできない。読書に適した机を持っていないので寝床で読むしかなく、読める時間と体勢が限られる。分量でいえばスティーヴン・キングのもっと長いのをずっと短期間で読んだことがある。どうやって読んだのか思い出せない。若い頃の話だ。

平易で読みやすい文章ではあるけれども、語りに癖がないわけではない。節回しというか呼吸の間合いというか強弱というか、物語展開の作法に親しみがなかった。最後まで読み終えて、これはスケールのでかい物語を受け止めるための器、構造なのだと得心したけれども、読んでいる最中はついていくだけで精一杯だった。さらには南米の人物名に親しみがない。親しみのない人名が大量に出てくる。ファーストネームが同じ男同士がファーストネームで呼び合うギャグまである。旧知の人物であるかのようにさらっと語られて「こいつだれだよ」と思ったら実はそれが初登場で、あとから詳しい説明があったりとか、ふざけたジャブまである。厳しい闘いを強いられた。

各部によって趣向が異なり、書き方も変わる。やたら細部を詳細に語るかと思えば、その詳細な細部の積み重ねが壮大な全体を形づくったりする。幾層にも重なる入れ子、どこまでも遠く広がる網。こんな書き方もあるんだなと感銘を受けた。喩えていうなら、なかなか話が見えないし、いいまわしが独特なのでじっくり腰を据えて聞かないと何をいっているかわからないけれども、見えてくるととてもおもしろい話をしている……あるいは実はとてもおもしろいんじゃないかと思いはじめて、全体像を知りたくなる、そんな語り口だ。正直にいって話の全体像は最後までよくわからなかった。殺人の謎も解かれないし。作家の謎はいちおう解かれて、この壮大な話が語られた理由というか事情はわかったような気がした。わかったようなわからないような、読み返して確かめたくなる感じだ。

ほんとうは四連休に読むつもりで買った。突発的な業務が入って連休がなくなってしまったので、途切れ途切れに読んだ。時間をかけてじっくり読むべき物語と文体ではあるのだけれど、しかし、あいだをおかずにつづけて読むべき物語ではあったようだ。でないと忘れてしまう。集中して読める条件が整っていれば、それ以上に読書経験がこれほどまでに不足していなければ、むしろつるつる読めたのではないか。アーヴィングの新作に書かれていたゴミ捨て場やグアダルーペの聖母が出てきて、読書のシンクロニシティを感じた。なぜかたまたま似た本をつづけて読むことがある。

著者は刊行を見ずに亡くなったという話だけれども、部分的には未完成の印象もあった。第三部の終盤は手を入れられすぎた手塚治虫の単行本のように場面が飛んでいる感じがするし、結末近くにはだれだかよくわからない語り手が唐突に私感を述べる箇所がある。本来は全体にもうすこし語りの要素が加えられるはずだったのでは。これ一作しか読んでいないから勘違いかもしれない。いずれにせよスケールがでかすぎて、いちど読んだだけではわからない。狭い部屋に暮らしているのでふだんは読み終えたら捨てる習慣なのだけれど、この本だけはとっておいて数年おきに読み返すつもりだ。


(もり まさひこ、1975年6月18日 -)著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、藤井太洋氏、十市社氏らによる指導を受けた『悪魔とドライヴ』が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。最新作は『逆さの月』。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。最新恋愛小説『ぼっちの帝国』連載中。
ぼっちの帝国

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