D.I.Y.出版日誌

連載第227回: いいとは思えない

アバター画像書いた人: 杜 昌彦
2019.
11.06Wed

いいとは思えない

日記を書くとその日のうちに十人に読まれるそれから数日のあいだに五人ほどが読んでくれる合計十五人。 『ぼっちの帝国の客と同数だそれくらいがおれの読者の総数なのだろう思ったより多いが生計の足しするにはせめて三千人は必要だこれまでに読まれた延べ人数でいえばおそらくその程度にはなるのだが本来は内容の薄いゴミをコンスタントに出す努力をすべきなのだろう世渡りが下手だとろくなことがない多く読まれればいいというものでもない出版社が電子版に本腰を入れるようになったのはこの一年ほどのことだ元年から九年黒船から七年かかったおかげで小説を読み慣れない客がストアの表示をめちゃくちゃにしてしまったストアと出版社双方の努力によってまともな客が少しずつ増えてきてはいるが2012 年における出版社の及び腰がいまだ尾を引いているストアの性質上ひとたび形成された核は雪だるまのように膨れ上がりつづける小説を読むにはそれなりの経験や能力が要求されるとんちんかんな客に読まれると実際のテキストとは接点のない文脈が形成されるそれを見た客は実際のテキストではなくその文脈を通じて評価する筋のいい客に読まれる努力は、 「本の網の改良といった長期的な対処なら悪くない献本のような他人の動向に浅ましく期待するふるまいは精神衛生によくないよくないがするしかないペイパーバック版を注文した問題がなければ追加注文して数カ所に献本するつもりだ金の無駄だわかっているこれまでは千円前後に収まるように心がけていた今回は二千五百円もする名刺代わりに気軽に配るには適さないまともなものを書くほど精神がえぐられるゴミみたいなもので賞賛されて上手に世の中を渡る連中に嗤われるかのような気分になる健常者と自分を比較するのはよくない他者との比較においてではなく絶対評価で考えねばならないしかしどう偽ろうにも一銭にもならず名刺にすら使えなかった事実はゆるがない健常者に蔑まれながら生活している出版くらい現実を忘れたい忘れたいが知的障害者が何をどう努力しようが嗤われるしかないそれが厭なら出版などせぬことだだれもおれを愛さない愛されるために書くのではない書いて焼き棄てるそのためにやれるのでなければならないなのに迷いが生じるのは浅ましいことだ更新がないのに訪れる客にもうしわけなくてこの文章を書いた書かなければよかった


(1975年6月18日 - )著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、総勢20名以上の協力を得てブラッシュアップした『血と言葉』(旧題:『悪魔とドライヴ』)が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。代表作に『ぼっちの帝国』『GONZO』など。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。